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最高裁判所第三小法廷 平成3年(行ツ)149号 判決 1991年12月03日

東京都豊島区駒込三丁目一二番三号

上告人

喜田村洋一

東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号

被上告人

豊島税務署長 渡辺瀞夫

右指定代理人

小山田才八

右当事者間の東京高等裁判所昭和六三年(行コ)第二七号各所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成二年一二月一二日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  本件上告を棄却する。

二  上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下において、本件各更正及び各過少申告加算税賦課決定を適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)

(平成三年(行ツ)第一四九号 上告人 喜田村洋一)

上告人の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

一 上告人は、昭和五八年六月三〇日に訴外篠澤眞弓と婚姻したが、これより前である同月二七日に、同人と夫婦財産契約を締結し、同月二九日その登記を経た。

右の夫婦財産契約において、上告人らは、左のとおり合意した。

第二条 夫あるいは妻がその婚姻届出の日より前から有する財産は、各自の特有財産とする。

第三条 夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産は、第四条に定めるものを除き、夫及び妻の共有持分を二分の一とする共有財産とする。

第四条 夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産のうち、前条の例外として、それを得た者の特有財産になるものは、本条各号に定めるものとする。

一 第二条の規定する特有財産の果実

二 いかなる名目であれば、身体・精神へ侵害・打撃を受けたことにより支払いを受けたる金員及びその果実

三 死因贈与、遺贈、相続によって得た財産及びその果実

四 特有財産あるいはその果実について、売買、交換、譲渡その他の処分をしたことによって得た財産

二 夫婦間によって民法の定めに従って登記された夫婦財産契約は、国を含む第三者に対抗することができるものであるから、右契約に従い、上告人がその名義で得た収入のうち、上告人の収入となるのは、その二分の一に相当する額である。

三 現行の民法第四編第五編は、昭和二二年法律第二二二号により、明治三一年法律第九号で定められた民法第四編第五編を全面的に改めたものである。しかし、本件で問題とされている夫婦財産制については、親族法相続法における他の規定と異なり、妻の財産に対する夫の管理権(旧民法八〇一条)など僅かの部分を除いては、旧民法の規定がそのまま存置されたのである。

したがって、現行民法における夫婦財産制の解釈にあたっては、旧民法の解釈ならびに、立法者意思を参酌すべきであり、特に後者は、現行規定の解釈の基準とされるべきものであって、最も重要である。そして、この点については、民法の実質的起草者である梅謙次郎博士が『民法要義』(明治四五年)を著しており、これを参照するのが最も適当である。

そして、このうち『民法要義巻之四親族編』で、「夫婦カ婚姻ノ届出前ニ其財産ニ付キ別段ノ契約ヲ為ササリシトキハ其財産関係ハ次款ニ定ムル所ニ依ル」とした旧民法七九三条について、「本条ニ於テハ先ツ契約ノ自由ヲ認メ当事者ハ苟モ公ノ秩序ニ反スルモノニ非サル以上ハ如何ナル契約ヲモ締結スルコトヲ得ヘキモノトセリ」とした後、立法当時における起草者が了知していた外国における夫婦財産制をいくつか列挙している。その中で、「所得共通制」として梅博士が挙げているのは、「是レ当事者カ婚姻当時ニ有スル財産ヲ別々ニ所有スルモ唯婚姻成立ノ後各自カ収ムル所の所得ヲ共通ニスルモノナリ」とするものである。

右の記述から明らかなとおり、旧民法が、梅博士のいう「所得共通制」を排除するものでなかったことは明らかであり、このことは当然に、現行の民法においても「所得共通制」という夫婦財産契約を締結すれば、それがそのまま文言どおりの意味を有するものとして、第三者にも対抗しうることを意味するのである。

四 ところで、本件における夫婦財産契約は、正に右の意味での「所得共通制」なのであるから、これが契約の文言どおりの効果を有すべきことは当然である。

上告人らは、どちらの名義をもって得たものであっても、それらの財産はいずれも原始的に、譲渡・移転など何らの法律行為をすることなく持分二分の一宛の共有財産となるべきことを約し、その旨を規定したのである。この点は、民法上の組合が得た財産(業務執行によって取得した財産あるいは組合財産から生じた財産など)が、総組合員の共有に属する(民法六六八条)ことと類似して考えられるところである。

上告人らは、前述のような効果を有するべきことを意図して、本件夫婦財産契約を締結したものであり、この契約は、一方がいったん取得した財産を他に譲渡、分配することを包括的に取り決めたものではない。そのような譲渡、分配は、仮にそのような必要があれば、夫婦間でその必要が発生したごとに実施すればそれで済むことである。どのような事情が発生するかも不明な婚姻前に、しかも変更不能な夫婦財産契約(民法七五八条一項)を締結する必要など全くない。上告人らが、そのような包括的な譲渡、分配を包括的に取り決めたと解することは、合理的な経験則に反するものというべきである。

五 何らかの財産が発生・変更・消滅した場合に、その効果が誰に帰属するかの決定は、民事実体法の定めるところによるべきものである。租税法は、この民事実体法によって定まった財産の発生・変更などのうち、ある範囲のものを所得と捉え、これについて所定の租税を賦課することを定めるものであり、実体法と離れて独自に財産の発生・変更・消滅などの帰属を決定することは原則としてないのである。

そして、夫婦の財産関係については、民事実体法たる民法が明文をもって、当事者の自治に任せる場合があることを認め、かつ、その要件を定めているのであるから、これを充足している本件の場合には、当事者の意図した効果がそのまま承認されるべきである。いうまでもなく、夫婦財産契約が締結された場合の財産の発生(所得)の帰属について、租税法上の目的から民法と異なる規定をした租税法規は存在しないのであるから、結局において、本件の夫婦財産契約は、契約当事者たる上告人らの意図どおりの効果が与えられるべきものである。

六 原判決及び第一審判決は、民法第四編第二章第三節第一款、特に、民法七五五条の解釈を誤り、上告人がその名義で得た財産は、その特有財産となることを判示したものであるから、この誤りが判決に影響を及ぼすべきことは明らかである。

七 よって、原判決及び第一審判決を破棄して、相当の裁判をなすことを求める。

以上

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